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最高裁判所第三小法廷 昭和30年(あ)365号 決定 1958年5月27日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人戸田善一郎の上告趣意第一点は単なる事実誤認と審理不尽の主張をいでず刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

同第二点は、原審において第一審第七回公判調書は事実に反し証人川合、河原尋問につき請求の撤回、決定の取消があった旨を記載した偽造調書であることを主張しその点についての証拠調を請求したのに原裁判所はこれを却下しこれを有効のものとして原判決をしたのは違法であるという単なる法令違反の主張に帰し刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(第一審公判手続につき記録を検討するに、同第四回公判で検察官の請求により所論本件被告人川合盛一郎、同河原盛人を証人として尋問すべく決定があり、同第五回公判で被告人河原盛人の事件を他の相被告人らの事件より分離の上右河原を証人として尋問したが、同公判で被告人川合の事件はその不出頭のため分離され、第六回併合公判以後は右両名証人の尋問が施行されなかったことは所論のとおりである。しかし、第一審における証拠の提出経過、立証趣旨、証拠内容に鑑みれば検察官の右両証人の尋問請求は検察官に対する供述調書を刑訴三二一条一項二号によって提出するためにされたものと認められるのに同第七回公判ではこれら調書を証拠とすることにつき同意のあったこと明らかであるから、これによって検察官の右証人尋問請求はその目的を達したため請求の撤回がなされたものと推認しうるのであって、しかも同公判調書によれば、同公判においては右以上に右両証人の尋問をしないことにつき尋問請求者たる検察官も被告人側も何等異議を申し立てずして論告及び弁論に入り第一審口頭弁論を終結したことが認められるから、この経緯に照らしても所論公判調書の偽造があったことは到底認め難い。さらに、かりに所論の証拠調につき撤回、取消が明白になされなかったとしても、右証拠調の結果に拘わりのない第一審判決挙示の諸証拠に鑑みるときは、同判示事実を認めるに足るから、右は結局原判決に影響を及ぼさなかったものということもできるので、所論は採用できない。)

同第三点について。

所論は、第一審で確定した無罪部分をも原判決が破棄したのは違法であるというけれども、本件控訴は被告人だけからなされたものであるから第一審判決の有罪部分のみに対するものであること控訴申立書の記載上明らかであって第一審判決中の有罪部分に関する事件だけが原審に移審した関係上、原審はその部分のみを破棄した趣旨であること原判文上明瞭である。所論は原判旨に副わない主張であって採るに足りない。

また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 垂水克己 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三)

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